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経理・財務の定型説明でAIを使うなら、数値を作る工程と、その数値を説明する工程を分けます。集計・計算・検算が済んだ表を基準にし、AIには増減の説明文を下書きさせ、承認前に数値、期間、単位、理由の根拠を照合します。
これにより説明の作成手順を整理できますが、効率が上がったかは確認や修正を含めて測る必要があります。AIが文章を速く返すことと、正しい説明を承認できるまでの時間が短くなることは同じではありません。ここでは社内向け月次報告の下書きを扱い、税務判断、会計処理の確定、外部開示の承認は扱いません。
原資料と説明の間に固定した集計表を置く
原資料は、会計システムの出力や管理台帳など、数値の出所を確認できる資料です。そこから対象期間と集計条件を決め、計算手順が確認できる表計算や業務システムで集計します。AIへの入力は、組織が利用を認めた環境で、目的に必要な範囲に限ります。社内資料であることだけを入力許可の根拠にはしません。
たとえば月次比較なら、対象部門、勘定科目の範囲、締め状況、単位、税込・税抜などの扱いを表に添えます。前月が確定値、当月が未締めの速報値なら、その違いを残します。数値の列だけを渡すと、AIが両者を同じ確度の実績として書くおそれがあります。
集計表には版または作成日時を付け、説明文がどの表を参照したか分かるようにします。集計し直した後に古い説明を流用すると、金額だけを修正しても増減率や結論が残ることがあります。表が変わったときに、どの文章を再確認すべきか追える対応関係が必要です。
NISTのGenerative Artificial Intelligence Profileは、生成AIが誤った内容や虚偽の内容を自信のある調子で示すリスク(2.2節 Confabulation)を取り上げています。以下の工程は、その一般的なリスクを月次説明へ当てはめた運用提案です。NISTがこの表や承認方法を指定しているわけではありません。
検算済み値を使った架空の月次比較
架空の事業部で、8月と9月の月次費用を比較する例です。以下は説明用の仮定値で、実企業の財務情報ではありません。両月とも同じ部門・科目範囲の確定値、金額は万円、税抜という条件を固定します。増減額は9月から8月を引き、増減率はその差を8月の値で割って100を掛けます。
| 費目 | 8月 | 9月 | 増減額 | 増減率 |
|---|---|---|---|---|
| 外注費 | 200 | 230 | +30 | +15.0% |
| 通信費 | 40 | 42 | +2 | +5.0% |
| 合計 | 240 | 272 | +32 | +13.3% |
外注費の増減率は30÷200×100=15.0%、合計は32÷240×100=13.333…%で、小数第1位へ丸めて13.3%です。合計の増減率を15.0%と5.0%の単純平均で求めてはいけません。費目ごとの金額が異なるため、合計金額を分母にします。この計算確認はAIの文章とは独立して済ませ、入力時点で値を固定します。
増減理由の資料は別に用意します。本例では、外注費について、発注管理担当者が確認した案件記録に「追加作業30万円」があり、集計対象の外注費増加と対応することを経理担当者が照合済みと仮定します。通信費の2万円増には、原因を裏付ける資料がまだありません。
この前提から書けるのは、「合計費用は前月比32万円、13.3%増加。外注費の30万円増は、確認済みの追加作業記録と対応する。通信費2万円増の理由は確認中」という説明です。通信費について「利用者増加のため」と補えば、数値が正しくても原因の説明が不正確になります。
AIへ渡すのは数値の再計算ではなく説明の条件
説明用の依頼例は次のとおりです。特定モデルでの実行結果ではなく、下書き作成の条件を示すものです。
添付の月次集計第1版から、社内会議向けの増減説明を作成してください。
対象は同一事業部の8月と9月、単位は万円、税抜、両月とも確定値です。
金額・増減額・増減率は表の検算済み値をそのまま参照し、再計算や補完をしないでください。
数値の変化と、その理由を分けて書いてください。
原因は対応する確認済み案件記録にあるものだけを使い、資料がない項目は理由未確認としてください。
出力は説明文と、各文に対応する表の行・列、理由の根拠の一覧にしてください。
数値や前提に矛盾があれば、正しそうな方へ修正せず確認事項として返してください。
対象期間、単位、範囲、参照表の版、文の長さは案件に合わせて差し替えます。一方、固定値の無断変更をしないこと、原因を創作しないこと、参照箇所を残すことは維持します。この文言で制御できたと決めず、返ってきた文を照合する工程を残します。
原表が曖昧なら、AIへ渡す前に直す方が適切です。単位の欄が空欄なら「万円だろう」と推定させず、表の作成担当者へ確認します。前月値が0の場合は増減率の分母が0となるため、通常の式では算出できません。別途定めた表示方法がなければ「算出対象外」等の扱いを確認し、AIが100%増などと補わないようにします。
承認前に金額の一致と意味の一致を分けて見る
レビューでは、数字が表と同じかを見るだけでは足りません。「費用が13.3%改善した」と書いてあれば、増加を改善と評価する根拠が必要です。本例では費用増という変化は示せても、それが事業にとって良いか悪いかを判断する売上や成果の資料はありません。「増加」と記載し、評価を勝手に加えないようにします。
具体的には、説明の各文を表の行・列へ戻します。「合計32万円増」は合計行の増減額、「外注費15.0%増」は外注費行の増減率と対応させます。合計率13.3%を外注費へ取り違えた場合は、文章を修正したうえで、その数値を使った見出しや結論も確認します。
原因の文は案件記録へ戻します。「追加作業と対応する」という限定を、「繁忙期の需要増が主因」に変えていないか点検します。追加作業があったことと、なぜ追加作業が必要になったかは別の問いです。説明文を自然にするために因果関係を延長しないようにします。
外注費の案件記録が30万円でも、表の増加が25万円なら、相殺要因や計上時点の違いを確認する必要があります。都合のよい数値だけを引用して原因を確定させず、不一致が解消するまで該当説明を保留します。理由を確認できない通信費については、変化の説明は残し、原因だけを未確認として担当者へ引き継げます。
表そのものに誤りが見つかった場合は、AIの文章だけを直して終えません。集計担当が原表を修正して再検算し、新しい版に対応する説明を作ります。承認者には、使用した表の版、照合済み箇所、未確認の理由、修正内容を渡し、承認対象を明確にします。
効率化は承認できる説明までの時間で測る
改善前の工程を「担当者が表を読み、説明を作り、上長が確認する」とします。改善後は「担当者が入力用の表と理由資料を整え、AIが下書きし、担当者が照合して、上長が確認する」です。前処理が増える一方、説明文の作成が減る可能性があります。どちらが大きいかは実測しないと分かりません。
試行では、同程度の行数、説明項目数、原因資料の有無、締め状況を揃えた報告を比べます。同じ担当者が同じ表を続けて使うと、二回目に内容を覚えている影響が出るため、順番を入れ替えるか、難易度が近い別の資料を使い、比較条件を記録します。繁忙月と通常月の違いを、AIの効果と混ぜないことも必要です。
時間は資料整備、下書き、照合、差戻し修正、承認に分けて記録します。AI利用料だけでなく、テンプレートの維持や資料の版管理にかかる負担も把握します。試行回数や期間を示し、単発の短縮時間を全社の削減効果へ広げません。
品質は、数値の転記誤り、単位・期間の取り違え、根拠のない原因説明、承認後の訂正を分けて数えます。未確認の原因を明示して人へ返すことは、理由を作れなかった失敗と一律には扱いません。ただし、単に未確認と書いて原資料を読まない出力も評価できないため、本当に資料が不足していたかを照合します。
まずは数値の構造が安定し、原因資料を用意できる少数の定型報告から試すと、改善すべき工程を把握しやすくなります。原資料の粒度や集計条件が毎回変わる業務では、文章生成より先に入力整理へ時間がかかることがあります。その負担も含めて続ける価値を判断します。
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