PAP-40-Layer Framework 第7層のアイキャッチ

発散と収束でプロンプトを切り替える方法

  • URLをコピーしました!

アイデアを広げたいときは、すぐに順位を付けず、異なる仕組みの案を出すよう依頼します。絞りたいときは、新しい案の追加をいったん止め、確認済みの条件と評価基準で候補を比べます。この切り替えを明示すると、案を思いつく作業と、実行できるか確かめる作業を混同しにくくなります。

ただし、二つのプロンプトに分ければ良い企画ができる、という効果を保証するものではありません。生成案には未確認の費用や効果が含まれ得ます。選定理由を資料へ戻って確かめ、人が採否を決める工程まで含めて設計します。

目次

一度に「斬新で実現可能な最良案」を求める問題

「研修のアイデアを出して、一番よい案を選んでください」という依頼では、何を良いとするかが曖昧です。AIが自分で評価軸を補い、最初に思いついた案を高く評価すると、候補が少ないまま結論だけが整うことがあります。逆に、評価のたびに新案を追加すると、比較する対象が動き続けて決まりません。

発散は選択肢の範囲を広げる作業、収束は条件に照らして候補を絞る作業と考えます。Design CouncilのFramework for Innovationでは、課題を広く深く探索する発散的思考と、焦点を絞って行動する収束的思考を説明し、必要に応じて前の段階へ戻ることも示しています。以下はこの区別をAIとの作業に応用した運用例で、同資料が指定するプロンプトや、実証済みのAI手法ではありません。

改善前は、一つの回答に候補、費用、効果、順位をまとめてもらい、人が後から事実を点検します。改善後は、まず候補を出し、次に不足情報を整理し、最後に固定した基準で比べます。生成回数は増える場合がありますが、何を調べれば選べるかが分かる状態を目指します。

研修企画で固定する条件と広げる部分

架空の社内研修を例にします。対象は新任担当者20人、所要時間は60分、外部への支出上限は税込3万円、学習目標は「問い合わせ内容を整理し、適切な担当へ引き継ぐ判断を説明できること」とします。会場と社内講師は確保済みで、その確保を示す記録があるという設定です。

外部支出3万円という条件には、教材購入費と外部サービス利用料を含めます。一方、社内担当者の準備時間はこの金額に含めず、別の比較項目として残します。社内工数を除いた安さだけで効率が良いと結論付けないためです。費用の範囲は実際の企画に合わせて決め、比較途中で都合よく変えません。

発散で変えてよいのは学び方です。個人演習、相互レビュー、事例の並べ替えなど、目標へ近づく仕組みを変えます。時間や予算を無視した空想だけを出すのでも、制約を細かく加え過ぎて同じ案しか出なくするのでもありません。既知の必須条件は維持し、条件内で試せる方向を広げます。

ここで「20人に人気がある」「理解度が上がる」といった効果は、企画時点では確認されていません。対象者数や会場確保はこの架空案件の与件、AIが作る研修方式は案、期待される教育効果は検証したい仮説として分けます。

発散の依頼は案の違いを見える形にする

説明用のプロンプト例は次のとおりです。実際にモデルへ入力して効果を測った例ではありません。

新任担当者20人向けの問い合わせ引継ぎ研修について、異なる学び方の案を6件作ってください。
60分、外部支出税込3万円以内という条件を保持し、各案の学習行動、必要な材料、未確認の前提を短く示してください。
名称を変えただけの案は統合してください。
この段階では順位や採用案を決めず、費用や効果の未確認値を事実として補わないでください。

6件は出力を扱いやすくするための仮の指定で、必要な案数の普遍的基準ではありません。6件出ても同じ講義形式の言い換えばかりなら、数を増やすより、どの学習行動が同じかを示して再検討します。目的は件数そのものではなく、比較する価値のある違いを得ることです。

たとえば「講師が正解を説明する」「受講者が事例を分類する」「二人で引継ぎ文を添削する」は、学習者が行うことに違いがあります。同じ題材を使っていても、異なる案として残す理由を説明できます。一方、「実践型講義」と「体験型講義」が同じ内容なら、別案として数えません。

この段階で特定の外部サービスが必要な案が出たら、「費用未確認」「組織での利用許可未確認」を残します。AIに相場を推測させて3万円以内に見せることはせず、収束の前に確認すべき項目へ移します。

収束の前に候補と判断基準を固定する

収束へ移るときは、候補一覧に版を付け、必須条件と比較項目を分けます。本例の必須条件は、60分に収まること、外部支出上限を満たすこと、目標である引継ぎ判断を受講者が練習できることです。魅力が高いという採点で、必須条件の不一致を埋め合わせないようにします。

次に、候補の一部を使った架空の比較を考えます。金額と準備時間は説明用の仮定であり、見積りや実績ではありません。

候補 企画上の条件 現時点の扱い
A 事例カードの分類と説明 60分、外部支出2万円、準備4時間、判断理由を説明する演習あり 仮定値を実資料で確認したうえで採否判断へ
B 長時間の外部講演 90分、外部支出5万円 現在の時間と支出条件に合わず除外
C 動画と個人ワーク 60分、料金と利用許可が未確認、演習内容も未確認 条件確認まで保留

Cの費用が分からないことを、0円や上限超過と読み替えません。Aについても、仮定の2万円を実際の見積りと扱えば採用判断の根拠が崩れます。表が示すのは判断の分岐であり、この架空例からAの実施決定までは進めません。

収束用の依頼は、たとえば次の形です。

候補一覧第1版だけを比較してください。
必須条件は60分以内、外部支出税込3万円以内、引継ぎ判断を練習できることです。
確認済み資料と仮定を区別し、必須条件に合わない案は理由を示し、条件未確認の案は保留してください。
条件を満たした案では、目標への対応、準備負担、利用環境を比較してください。
新案を足さず、採用候補・除外・保留と、判断に使った資料を示してください。

比較表の欄を埋めるためだけに点数を付ける必要はありません。段階評価を使うなら、たとえば「学習者が判断理由を説明する機会がある」という観察可能な基準を先に定めます。AIが付けた「効果5点」は、学習成果の測定値ではありません。

案を戻すときも何を変えたか残す

どの案も条件を満たさなければ、発散へ戻れます。その際は「条件内で実施できる案がないため、60分を維持して外部講師に依存しない形式を追加する」のように、戻る理由と変更する範囲を指定します。予算を増やす、目標を変える、時間を延ばすといった判断は、企画責任者が決めます。

候補Aの準備負担が重いと分かった場合も、Bの評価点を上げて帳尻を合わせるのではなく、準備資料を再利用できるか調べる、別の学び方を追加する、と次の作業を特定します。選定記録には採用候補の理由だけでなく、除外理由、保留理由、その判断を変え得る情報を残します。これがないと、後で同じ案を再提案したときに同じ確認を繰り返します。

改善したかは案の数と作業時間だけで決めない

二段階に分ける効果は、同じ企画条件と資料を使って比較します。従来の一括依頼と切替式の依頼で、モデル、設定、参照資料、総作業時間の上限を可能な範囲で揃えます。切替式は呼出し回数が増えるため、回答一回だけの速さではなく、人が確認して候補を決めるまでを測ります。

発散では重複を除いた案数と、事前に定義した学習行動の種類を記録します。収束では、必須条件に合わない案を残していないか、未確認情報を確定値にしていないか、選定理由が資料と対応するかを人が照合します。生成案を採点する人には、可能ならどちらの方法で作った案かを伏せ、好みだけで判定が動かないようにします。

時間は、依頼作成、AIの応答待ち、資料確認、重複整理、採否判断、修正に分けます。試行期間や案件数は対象業務に応じて決め、単発の成功を一般的な効率向上にしません。案の幅が広がっても確認時間が増えたなら、その両方を報告します。研修そのものの学習効果は、企画選定の質とは別に、実施後の課題や行動の確認で評価します。

案が一つに決まる場面や、答えが資料で固定されている定型業務では、毎回二段階に分ける必要はありません。複数の進め方を比べる価値があり、評価条件を説明できる仕事から試すと、追加工程が役立つか判断しやすくなります。

視点と実施条件を変えてアイデアを広げる方法は「AIのアイデアを広げるには視点と実施条件を変えて比べる」、出てきた事業案を事実と仮説に分けて確かめる方法は「新規事業案の事実と仮説を分けて需要と実現性を確かめる」で解説しています。

出典・参考資料

  1. Design Council「Framework for Innovation」(確認日:2026年10月12日)
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

さかっぺのアバター さかっぺ PAP Research運営 / AIガバナンス・アーキテクト / プロンプトデザイナー

ITインフラの実務経験をもとに、AIの安全性と実用性を両立する仕組みを研究。PAP Researchでは、AIモデルの継続観測と、プロンプト・AI技術の実務解説を発信しています。

経歴や研究方法、発信方針は運営者プロフィールで紹介しています。

目次