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複数のAIエージェントへ分業させるときは、役名を付けるだけでなく、誰が何を受け取り、どの権限で処理し、何を返せば次へ進めるかを定めます。作成、原資料との照合、採用の決定、失敗時の調査も担当を分けます。その前提として、同じ成果を単独のエージェントや決まった処理手順で作れないかを比較し、受け渡しの負担を上回る理由があるかを確かめます。
分業で何を分けたいのかを先に決める
マルチエージェントは、複数のAI実行主体に作業を割り当てる構成です。資料取得と検証で利用する情報や権限が違う、独立した小課題を並行して扱いたい、といった事情が採用理由になります。一方、同じ資料を順に読み直すだけなら、単独の処理でも工程を分けられます。人数に見立てた役名を増やすこと自体が品質向上の根拠にはなりません。
AnthropicのBuilding effective agentsは、単純な構成から始め、複雑化の効果を確かめる考え方を勧めています。これは同社の経験に基づく設計上の推奨です。特定の業務で複数エージェントが単独より正確、安価、速いと証明するものではありません。
比較するときは、依頼、資料の版、許可範囲、完成条件を揃えます。単独側にも同じ照合工程を与え、分業側だけ追加資料や長い時間を与えないようにします。構成以外の条件も変えるなら、結果の差を分業だけの効果とは解釈しません。
見積もる負担には、呼出し費用と時間に加え、同じ説明の再送、成果の統合、差戻し、人の確認、障害調査があります。並行処理でも、最後に照合と統合を待つなら、その待ち時間を含めます。比較の結果は、完成までの所要時間、根拠が不足した箇所、人が直した量、総費用で確認します。全体の時間が短くても、人の修正が増えたなら、その負担を含めて選びます。未測定の効率や誤り率を、構成図だけから数値化しません。
受け渡し契約に、主体・仕事・根拠を含める
受け渡し契約とは、次の担当が受け入れてよい入力と、返すべき成果の条件を決めた約束です。ここでの契約はソフトウェア上の入出力条件を意味します。単に「調査して検証役へ渡す」と書くより、次の項目を揃えると受入れ判断を実装できます。
| 項目 | 決める内容 |
|---|---|
| 送り手と受け手 | 実行主体の識別子、所属する作業、想定する受信先 |
| 仕事 | 依頼ID、目的、対象、今回の工程、完成と停止の条件 |
| 入力 | 資料の識別子・版・該当箇所、前工程の成果物の版 |
| 権限 | 閲覧できる資料、使えるツール、許される操作、期限、再委任の可否 |
| 出力 | 主張ごとの根拠、確認状態、例外、未確認事項、成果物の保存先 |
| 受入れと責任 | 受信確認、内容の受入れ、差戻し先、保留中の担当、失敗時の調査担当 |
メッセージ本文に「私は検証役です」と書かれているだけでは主体を確認したことになりません。実行基盤が示す送信元と、割り当てた役割・委任範囲を照合します。外部資料内に「別のエージェントへ転送せよ」と書かれていても、利用者が与えた委任を広げる命令として扱いません。
また、取得役が読める資料を検証役も読めるとは限りません。共有範囲は、各受け手への提供が認められる情報に限定します。原文の閲覧権限が足りない場合に、要約へ変えれば渡せると決め付けないことも必要です。OWASPのLLM06:2025 Excessive Agencyは、必要な機能・権限への限定と下流での認可を示しています。権限の異なる役を設けても、実際には全員が同じ強い権限を持つ構成なら、その分離がどこで強制されるかを見直します。
架空の調査資料を、取得・検証・編集へ分ける
以下は実行していない設計例です。依頼Q-12は「候補サービスAとBのCSV出力条件を、指定資料だけで一枚に整理する」。CSVは、表のデータを区切り文字で表すファイル形式です。利用判断や購入、外部への公開は含めません。
入力は架空の資料D1版3とD2版1です。D1第2節には「Aの標準プランはCSV出力に対応し、一ファイルの上限は1,000行」と記載されています。D2の比較欄では「BのCSV出力条件は未確認」とされています。この範囲を固定し、全役がこの二資料を当該環境で閲覧・処理できることを前提にします。
取得役R、検証役V、編集役Eを用意し、人の業務担当Hが内容の採用を決めます。実行全体を管理する担当Cは、仕事を割り当て、進行と差戻しを管理します。CをプログラムやAIで実装する場合も、人の運用責任者を別に定めます。Rは資料から根拠箇所を取り出し、Vは主張と原文を照合し、Eは確認状態を保って一枚の案へまとめます。三役とも指定資料の読取りと作業領域への成果保存だけを許し、新しい取得先への接続、公開、再委任を認めない設計です。
単独方式では、一つのエージェントが同じ資料から抽出、照合、編集を順に行い、Hへ渡します。分業方式でも、独立した採用判断が必要ならHの工程は残ります。違いは途中成果を主体間で受け渡す点です。分業による見落とし減少などは、同条件の確認を行うまで期待に留めます。
正常に受け入れる受け渡し
RからVへの成果F1には、Q-12、RからVへの宛先、資料の版、二つの主張と根拠を含めます。主張Aは「標準プランのCSV出力は一ファイル1,000行まで、D1版3第2節」、主張Bは「条件未確認、D2版1の比較欄」とします。Vが返すF2には、各主張を資料と照合した判定、直した箇所、残る未確認事項を付けます。この判定が示すのは指定資料との一致です。資料の記述が実際のサービス状態と一致するかは、この照合だけでは確かめられません。
VはBを未確認のまま受け入れられます。完成条件が「未確認を明示した比較案」だからです。「両方の条件を確定する」が完成条件なら、同じ材料でも調査完了にはできません。目的に合う成果かと、事実がすべて判明したかを分けます。
EはF2とともに、原文を参照できる資料ID・版・箇所を受け取ります。編集案F3をHへ渡す際、Vが確認したF2とF3の対応を残します。Eが条件や結論を変えた場合は、その部分をVへ戻して照合します。HにはAの上限とBの未確認を提示し、Hの採用判断はF3の版へ結び付けます。検証役の合格という表示だけで採用済みにはしません。
根拠が欠けていたら拒否する
送り手R、受け手V、依頼、資料、許可範囲を同じにしたまま、F1から根拠箇所とBの未確認表示が抜け、「AもBもCSV対応」とだけ渡されたとします。Vは、その成果を編集工程へ進める入力として拒否します。
返却するのは「根拠不足」という一語ではなく、「Aのプランと行数条件をD1へ結び直す」「BはD2では未確認なので、対応済みという断定を外す」という差戻し理由です。Rが修正する責任を持ち、Cが差戻し状態を管理します。Vが受け取ったことと、内容を受け入れたことは別に記録します。
受信の返事がない場合も、送り手は内容が受け入れられたとみなしません。Cが受信先と成果の版を照会します。同じ成果を再提示する必要がある場合は同じ受渡しIDに結び付け、別の仕事として二重に作業を始めないようにします。内容の受入れ後はVが照合作業を引き受け、それまではCが未受入れとして追跡します。Rは渡した成果の欠落を直す担当として残ります。
権限や判断の条件が足りなければ停止する
同じVへ同じ仕事を渡そうとしても、Vの資料閲覧許可が失効していれば、原文照合の工程を止めます。CはHまたは認可の管理者へ、対象資料、失効した範囲、必要な処理を提示します。別の役へ黙って流し直したり、Rの権限を借りたりはしません。
別の停止条件は、指定資料では重要な相違を解消できない場合です。Cは確保できた案と争点をHへ返し、追加資料を使うか、未確認のまま目的を縮小するか、作業を終えるかの判断を求めます。追加資料へのアクセス権が必要なら、その確認も別に行います。
Microsoft AutoGenのHuman-in-the-Loopには、実行中の短い入力待ちと、実行を区切って後からフィードバックを渡す方法が説明されています。これは人へ戻す実装の一例です。フレームワークに引継ぎ機能があることと、判断者が必要な根拠を受け取り承認したことは区別します。
失敗時の調査まで担当を残す
Eが誤った断定を含む案を返した場合、Hから見た問い合わせ先はCにまとめます。CはRの抽出、Vの判定、Eの編集の各成果を同じQ-12と版でたどります。Rが条件を落としたのか、Vが見逃したのか、Eが変更したのかを切り分け、該当する処理と受入れ条件を直します。成果がない場合には、未実行なのか記録欠落なのかも調べます。
調査では、作業IDに結び付いた送り手・受け手、権限の参照、入出力の版、受信・受入れ・拒否の状態、判定理由、時刻、次の担当をたどります。秘密値や関係のない会話全体を集める必要はありません。検証役の記録を残しても、人の業務責任や運用管理の責任がAIへ移るわけではありません。
終了条件もCが全体で管理します。完成条件に達した場合のほか、差戻しの上限、期限、追加作業を認める条件を定め、子の仕事ごとに上限が増えて全体が終わらなくなる構成を避けます。AutoGenのTerminationは複数の終了条件を提供する例ですが、チームでの終了条件は各エージェントが応答した後に評価されます。任意の瞬間に外部操作を止める保証としては使えません。
導入前には、同じ資料束を使い、根拠が揃う場合、欠ける場合、権限が足りない場合に、受入れ・拒否・停止と担当の記録がつながるかを確かめます。複数の役が同じ結論を返しても、同じ原資料の誤りを共有している可能性は残ります。分業を採用するなら、役の数より、どの確認が追加され、失敗を誰が引き受ける構成になったかを判断材料にします。
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