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AIへ「推測しない」「勝手に決めない」と頼むときは、その条件に当てはまったら何を出すかも指定します。不明な欄を残す、理由を示す、確認用の質問を作るなど、許される次の動作を添えると、依頼の完了条件が明確になります。ただし、代替動作が元の禁止に反していないか、実際の回答と資料を照らして確かめる必要があります。
禁止は境界を示し、代替はその先の処理を示す
「期限を作らない」という禁止から分かるのは、資料にない日付を確定値として追加してはいけないことです。その場合に、期限欄を省くのか、空欄を残すのか、作業全体を止めるのかまでは決まりません。どれが適切かは、結果を受け取る人の仕事によって変わります。
Anthropicのプロンプト設計ガイドは、出力形式を指定する場面で、避けたい形式だけでなく望む形式を伝える方法を紹介しています。この考え方を業務の依頼へ使うなら、「しない」の後に、条件に合った出力を具体化します。否定文そのものが使えない、あるいは肯定文なら常に守られるという意味ではありません。
禁止を消して、代替だけに変える必要もありません。「日付を推測せず、未確認と表示する」のように組み合わせれば、避けることと代わりに行うことの関係が読めます。重要な境界は明示したまま、その内側で作業を進める道筋を示します。
期限のない案件を、値を埋めずに引き継ぐ
以下は架空の案件管理メモです。AIに、担当者が確認するための作業一覧を作らせるとします。メモの内容は「製品紹介ページの文章を営業企画が更新する。公開日は次回会議で決める」の二文だけです。更新作業の期限と個人担当者は記載されていません。
元の依頼は「作業、担当、期限を整理してください。期限を捏造しないでください」です。この禁止は必要ですが、期限を見つけられないときに誰へ何を引き継ぐかは残されています。「次回会議」を作業の締切へ読み替えたり、担当者名を補ったりすれば、表の見た目は埋まっても原文の意味から離れます。
改善した依頼は、たとえば次のようにします。
このメモから作業、担当、期限を整理してください。
原文にない期限や個人名は追加しないでください。
期限は、記載がなければ「未確認」とし、理由を添えてください。
組織名だけが書かれている担当欄は、その組織名を残してください。
原文にある決定予定は、作業期限と分けて記してください。
期限が未確認なら、営業企画の担当窓口へ確認するための質問文を作ってください。
送信は行わないでください。
ここでは、確認先の「営業企画の担当窓口」を、依頼する側が与えています。AIに新しい個人名や宛先を探させる依頼ではありません。実務では、対象資料、出力項目、社内で定めた窓口を差し替えます。窓口が未指定なら、確認先自体を質問するか、依頼者向けの確認事項として残します。
期待する作業欄は「製品紹介ページの文章更新」、担当欄は「営業企画(個人担当者は未確認)」、期限欄は「未確認:メモに更新期限の記載なし」です。別の欄に「公開日は次回会議で決定予定」と置きます。決定予定という事実を落とさず、公開日と更新期限を一つにまとめない形です。
照会文の例は、「製品紹介ページの文章更新について、更新期限と個人担当者を確認したいです。現在のメモには期限の記載がなく、担当は営業企画とされています」です。この文も実際に送ったものではなく、原文と依頼に基づいて用意した期待例です。確認していない事実を前提に「月末まででよいですか」と誘導しないようにします。
代替行動には、条件と止まる位置を含める
使いやすい依頼にするには、代替を「適切に対応する」で終わらせず、いつ、何を、どこまで行うかを書きます。上の例なら、期限が資料にないとき、未確認という値と記載なしという理由を出し、照会文の作成まで行います。送信は別の判断として残しています。
同じ未確認でも、資料にない場合と文字を読めない場合では、その後に必要な対応が違います。画像が不鮮明なら「期限欄が判読困難」と記し、鮮明な資料の提供を求める方が先です。二つの日付が食い違うなら、両方の記載を示して優先関係の確認へ回します。何でも同じ質問へ置き換えると、不足の原因が見えなくなります。
また、不明な一項目があるときも、独立して確認できる項目は残せます。作業名と部署名を取り出せるのに、期限がないという理由だけで一覧全体を拒む必要はありません。ただし、その期限がなければ実行できない予約や発注などへ進む場合は、依存する操作を保留します。部分的に出力できることと、そのまま実行できることは分けます。
Anthropicの不確かな情報への対処では、不確かさを認めさせ、主張と根拠を照合する方法が示されています。重要な情報の検証は残るため、「未確認」という語を出せたかだけを合格基準にせず、どの情報が不足しているかも原文と照らします。
禁止ごとに長い例文を増やすより、止まる条件と次の動作を対応させておくと、依頼文を直すときの見落としを減らせます。
| 禁止・制約 | 条件に合う代替の例 | 避けたい置き換え |
|---|---|---|
| 資料にない事実を補わない | 確認できた範囲だけ答え、不足する項目と理由を示す | 一般的な傾向を、その案件の事実として書く |
| 個人名を補わない | 原文の組織名を残し、個人担当者は未確認とする | 似た案件の担当者名を流用する |
| 指定資料以外を使わない | 資料の追加を依頼者へ求める | 記憶している古い情報で埋める |
| 未承認の送信をしない | 照会文の下書きと確認事項を示し、送信は保留する | 別の経路で届ける、照会済みと報告する |
代替としてAIに追加情報を求めさせる場合も、必要な範囲に絞ります。更新期限を確かめるために、担当者の個人的な連絡先まで集める必要はありません。
禁止と代替が衝突する依頼を直す
依頼に「期限は推測しない。ただし表の全欄を必ず具体的な値で埋める」と書けば、不明な期限で二つの条件が両立しません。後半を「全項目を表示し、確認できない値は未確認と記す」に変えると、欄を省かない目的を残しつつ、具体値の捏造を求めずに済みます。
「勝手に外部へ送信しない。不明点は取引先へ自動で問い合わせる」にも、権限の不一致が残ります。確認が必要だからといって、送信先や送る内容まで承認されたとは限りません。下書きだけを作るのか、社内確認へ回すのか、承認された条件で送信するのかを区別します。送信できない環境なら、実際に照会したと報告させないことも必要です。
代替が、新しい断定を作る場合もあります。「資料にない場合は、未決定と書く」は一見慎重ですが、別の会議や文書ですでに決まっている可能性があります。確認できていない状態は未確認とし、原文に「まだ決めていない」とある場合だけ、その決定状態を伝えます。
禁止事項が増えたときは、一つずつ代替文を付けるだけでなく、同じ場面に複数の指示が当たらないかを見ます。期限が不明で、照会先も不明という入力なら、誰かを創作して問い合わせるのではなく、依頼者へ確認先を求める動作が必要です。代替先でも条件を満たせない場合の止まる位置を決めます。
回答では、何をしなかったかだけを見ない
確認には、元資料と、期待する値や動作の一覧を用意します。架空のメモをそのまま使う場合、資料にない期限と個人名が加わっていないか、部署名と決定予定が保たれているか、照会文がその不足だけを尋ねているかを照合します。これらは今後行う確認の例で、実測した評価結果ではありません。
次に、期限が明記されたメモへ変えた場合も考えます。「更新期限は10月18日」と追加されたなら、原文どおり「10月18日」と表示し、記載のない年は補わないことを期待します。禁止を意識しすぎて、書かれている日付まで未確認にするなら、代替を使う条件が広がりすぎています。何でも未確認にして作業を止めれば禁止には反しませんが、値を引き継ぐという目的は果たせません。
判断が難しいときは、回答が悪いのか、渡した資料が足りないのかを先に分けます。期限が別の確定資料にしかないなら、文言を工夫しても元のメモからは取り出せません。許可された資料を追加し、その対象と更新時点を確認してから、同じ出力条件でやり直します。
最後に、プロンプト内で「送らない」と指定しても、それは実行権限を制限する設定ではありません。下書き作業なら送信機能を使えない構成にし、送信が必要になった時点で対象と承認を確かめるなど、利用環境側の仕組みも合わせます。OWASPのExcessive Agency対策も、必要な機能と権限へ限定し、モデルの外で認可する考え方を示しています。禁止と代替を一組にする目的は、権限を増やすことではなく、許された範囲で次の人へ仕事を渡せる依頼にすることです。送信を実行側でどう止めるかはAIの送信をどう制御する? 指示・システムの強制・人間承認の役割、指示への従い方を測る方法はプロンプト遵守を保証にしない――測定結果と実行制御を分けるで扱っています。
あいまいな依頼を前に、確認するか仮定して進むかの判断基準は、「あいまいな依頼は確認するか仮定して進むか」で解説しています。
AIを使う前に確かめる12項目は「AIを使う前の安全確認チェックリスト」にまとめ、記入用のAIKYシート(PDF・Excel)も配布しています。
基本から確認する:この記事の前提になる考え方は、「プロンプトの書き方ガイド(依頼文の基本6項目と例文)」にまとめています。

