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電子透かしが検出されなかった場合に言えるのは、まず「その検出手段と条件で、対象の透かしを検出しなかった」ということです。すべてのAI生成を否定したことにはなりません。検出された場合も、画像に描かれた出来事が本当にあったか、素材を利用してよいかは、別の根拠で確かめます。
透かしを確認するときは、対象の方式と検出範囲を調べ、元ファイル、加工の経路、制作記録と対応させます。どの方式について、何を確認できたかを記録します。
検出器は、何を探しているのか
ここで扱う電子透かしは、コンテンツに埋め込まれた識別のための信号を、対応する手段で確認する仕組みです。見えるロゴや、ファイルに付く来歴情報と同じものとして扱わず、使用する方式の説明を確かめます。一般的な画像生成検出器とも、判断に使う情報が異なる場合があります。
NIST AI 100-4は、電子透かしに偽陽性と偽陰性があり得ることや、方式によって対応する検出器が必要になることを整理しています。偽陽性は対象の透かしがないのにあると判定すること、偽陰性は検出対象の透かし付き素材を見逃すことです。加工版を評価に含める場合は、元の付与履歴を確かめる評価なのか、現ファイル内の信号を調べる評価なのかを明示します。両者を同じ正解基準として混ぜないようにします。
検出対象外の方式で作られた画像を調べても、その画像の全制作工程を判定したことにはなりません。検出対象の信号がないことと、AIを一切使っていないことは別だからです。画像、音声、動画でも対応範囲が違う場合があるため、対象形式を確認します。
たとえばGoogleのGemini Apps Helpで説明されるSynthIDの確認は、Google AI由来のSynthIDを対象としています。同ページは加工後にも対応する設計を説明する一方、多くの変更を加えた後には検出できない場合があるとも示しています。この説明から、他社の方式まで含む万能なAI判定や、加工後の見逃しがないことは導けません。
加工後の結果は、元ファイルとつなげて見る
圧縮、切り抜き、大きさの変更などを経た素材では、検出可能性が変わることがあります。ただし、どの加工でどこまで変わるかは方式や条件に依存します。「圧縮したら必ず消える」「切り抜いても必ず残る」のように一律には言えません。
NISTの報告は、加工への強さや検出精度を、条件付きの性質として扱っています。報告は2024年の技術概観であり、現在の個別製品の検出率を示す資料ではありません。製品の導入判断に必要なら、現在使う方式と入力条件で別に確認します。
加工版だけを入手した場合は、元に近いファイルと、その間に行われた処理を求めます。元画像と加工版の対応が取れていなければ、異なるファイルの検出結果を比較しても、加工の影響とは言えません。ファイルの名称が似ているだけではなく、制作記録などで対応を確かめます。
検出器の版や判定設定も残します。前回と違う版、違う閾値、違う前処理で判定したなら、差の原因を加工だけへ帰せません。公開されていない情報は未確認とし、同じ条件だったと推測して埋めないようにします。
透かし付き素材と加工版を比べる計画
以下は、広報用素材を受け入れる担当者が考える架空の比較計画です。実際の素材の生成、透かし付与、加工、検出を行ったものではなく、判定結果や検出率は設定していません。検出の性能を確かめることと、素材を掲載してよいかを判断することは別に扱います。
まず、制作工程の記録から、対象方式の透かしを付けたと確認できる素材Wを用意する計画にします。さらに、同じ方式の透かしを付けていないと工程から確認できる対照素材Nも用意します。Nが「非AI生成」である必要はなく、対象の透かしの有無を確かめるための対照です。単に検出されなかった素材をNとして選ぶと、正しさの基準が検出器自身へ戻ってしまいます。
| 比較に使う素材 | 確認したいこと | 固定・記録する条件 |
|---|---|---|
| Wの元ファイル | 基準となる素材を検出対象にできるか | 付与方式、制作記録、検出器の対象形式 |
| Wから圧縮した版 | 圧縮条件で結果が変わるか | 元ファイル、圧縮方法、その他の条件 |
| Wから大きさを変えた版 | サイズ変更で結果が変わるか | 元ファイル、変更方法、保存方法 |
| Wから切り抜いた版 | 対象範囲の変化で結果が変わるか | 切り抜き領域、元画像との対応 |
| Nとその対応する加工版 | 透かしを付けていない素材で検出が出るか | 非付与の工程記録とW側に対応する加工条件 |
派生画像はそれぞれ元ファイルから作る計画にし、複数の加工を重ねた版は別に扱います。圧縮後に切り抜いた画像だけを使って、切り抜きの効果を単独で測ったとは報告しません。現場で必要な複合加工は別の条件として追加します。
実施するときの記録では、検出、非検出、判定不能、処理失敗を分けます。画像を受け付けなかった場合を「透かしなし」に含めないことが必要です。Wの基準版で検出できないなら、対象方式、検出器、ファイルの対応を見直し、その状態で加工の強さだけを比較し続けないようにします。
また、一つのWとNの確認は、その素材と条件についての確認にとどまります。方式全体の偽陽性率や偽陰性率を示すには、評価対象の集め方、件数、加工条件、判定基準を別に定める必要があります。ここでは率の仮定値や製品順位を作らず、比較の前提だけを示しています。
結果が出た後も、主張の範囲を広げない
Wの加工版で検出が得られなかった場合を想定しても、その結果だけで「加工によって完全に透かしが除去された」とは言えません。確認できるのは、使った検出手段がその条件で検出しなかったことです。元の付与記録、加工経路、検出器の制約を併せて扱います。
Nで検出が出た場合は、Nを非付与とした根拠と対象方式の定義を再確認します。基準に問題がなければ、偽陽性として検討する材料になります。すぐに「制作記録が虚偽だった」と責めたり、作者がAI利用を隠したと断定したりする根拠にはしません。
画像の一部への生成や編集が検出対象になる方式でも、その結果から画像全体の来歴を自動的に決めません。検出器が何を示す仕様かを確かめ、対象部分や工程を特定できない場合は、その限界を添えます。「AIを使った可能性がある」とだけ広げるより、対象方式について何を確認できたかを明確にします。
来歴、出来事、利用条件を別々に確かめる
透かしの結果に加え、元ファイルの受領経路、作成者の説明、生成・編集の記録、必要なら独立した写真や現場記録を照合します。ただし、複数の資料が同じ元情報を写しただけなら、独立した証拠が増えたとはみなしません。
C2PAのContent Credentials解説は、来歴情報とコンテンツの対応を検証する仕組みを説明するとともに、内容の真実性を単独で決めるものではないこと、情報が不完全な場合もあることを示しています。透かしと来歴の検証を組み合わせても、出来事の事実確認が不要になるわけではありません。
たとえば素材を「新店舗の実際の写真」として掲載するなら、その店をその時点で撮影した根拠が必要です。制作記録が生成したイメージであると示すなら、実際の写真として扱いません。生成イメージとして使う場合には、その用途が伝わる表示と内容の適切さを確かめます。透かしが検出されたという事実だけで、そのどちらの用途も自動承認しないようにします。
さらに、写真、生成素材、追加した部品などの利用条件を確認します。作成者や権利者が認める用途、利用先の媒体、加工の条件を照合し、未確認なら採用を保留します。検出結果や来歴情報は、契約やライセンスの代わりにはなりません。
受け入れ記録には、対象ファイル、検出手段と確認日、結果、制作・加工の根拠、利用条件の確認状態を分けて残します。「非検出なので自由に使用可」のように、技術的な結果から権利判断へ飛ばないことが大切です。材料が足りなければ、何を追加すれば判断できるかを示し、根拠を確認できる代替素材も検討します。
基本から確認する:この記事の前提になる考え方は、「AIを使う前の安全確認チェックリスト(AIKYで確かめる12項目)」にまとめています。

