マルチエージェントの循環と膠着を、全体の終了条件で区切る

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複数のAIエージェントが同じ修正を往復させたり、意見が割れて結論を出せなくなったりするときは、連鎖全体に完了条件と打切り条件を設けます。成果の変化を確認し、進まない議論は期限付きの裁定へ移し、解決できなければ不一致を残して人へ返します。一つのエージェントの終了だけでは、別の担当や外部操作まで止まったとは判断できません。

外部への保存や送信がある場合は、会話の終了と操作の結果を別々に確認します。議論が終わっても、送信先で処理が続いているかもしれないためです。

目次

往復の回数だけで、異常と決めない

作成役が案を出し、批判役が不足を指摘する往復は、通常の改善でも起きます。新しい根拠が見つかった、未解決の指摘が一件閉じた、検査結果が変わったと確認できれば、上限内で続ける理由があります。「検討中です」という発言が増えただけでは、進展した証拠になりません。

循環呼出しは、AからBへ渡した仕事が再びAへ戻るように、依頼が巡る構造です。構造に循環があっても、成果が改善され、終了へ近づくなら、それだけで失敗ではありません。同じ根拠と指摘のまま修正を戻し続ける場合に、進展のない循環を疑います。

膠着には、評価基準が決まらず判断を進められない場合と、互いの応答を待ち続ける場合があります。後者のうち、AはBの結果を、BはAの結果を待ち、現在の実行手順ではどちらも待ちを解けない状態はデッドロックとして切り分けます。意見の不一致だけを、計算機上のデッドロックと呼ばないようにします。

また、外部サービスが処理中であることを確認でき、照会期限と担当者が決まっている待機は、直ちに膠着ではありません。処理中・結果不明・相互待ちを混ぜると、正当な作業を中止したり、まだ動いている操作を重ねたりします。

完了と打切りを、開始前に書き分ける

完了条件には、成果物、照合する資料、合格基準、判定する担当を含めます。「全員が賛成した」だけでは、元資料との一致や、依頼を満たしたことを確認できません。合意は参加者の意見が揃った状態、決定は権限を持つ担当が次の扱いを定めた状態です。不一致を残した決定もあります。

打切り条件は、連鎖全体の反復回数、経過時間、費用、進展のない期間、解消できない権限不足などです。打切り後の状態も「部分成果あり・未完」「裁定待ち」「外部結果不明」のように残します。予算を使い切ったことを、仕事が成功した証拠にはしません。

全体を管理する制御プログラムに、依頼の識別子、親子関係、残り予算、最終期限、未解決事項を持たせます。子へ渡すたびに回数や時計をゼロへ戻すと、各担当が上限を守っていても全体が終わりません。並列作業や再試行も同じ枠へ計上し、新規委任とツール呼出しの直前に残りを確認します。費用の上限を約束するには、実行中の要求が使う分も確保できる仕組みが必要です。応答が来ない相互待ちにも対応できるよう、最終期限は会話の進行とは別に監視します。

Microsoft AutoGenのTerminationには、メッセージ数や経過時間などによる終了条件があります。ただし、説明されているチームの判定は各エージェントの応答後です。外部から停止を指示する仕組みも、同じ文書群のTeamsでは、発言中のエージェントの番が終わってから止まると説明されています。これらを、任意の瞬間にすべての外部操作を遮断する機構とは扱えません。ここで述べる共有予算や裁定は、個別環境で設計する運用条件です。

架空の回答案で、循環と未合意を比べる

以下は未実行の架空例です。作成役と批判役に、社内手続きの回答案を一つ作らせます。入力資料には「申請の回答は三営業日を目安とする。追加確認が必要な場合は延びる」とあり、依頼は「目安と例外を残し、短く説明する」です。資料、役割、参照権限、合格基準を固定し、やり取りの内容だけを変えます。送信や公開は認めず、承認済みの確認用保存先への保存だけを想定します。

実行前に管理担当は、入力資料の版、二役の参照範囲、保存先への許可を確認します。原文の意味と例外が保たれ、未解決の重大な指摘がなく、保存結果を確認できれば完了です。許可や必要資料が揃わなければ、該当する処理は開始せず不足を返します。批判役には、指摘の根拠箇所と解消条件を返させます。作成役には、修正箇所と未解決事項を返させ、表現だけを変えて同じ指摘を再提出したのかを追えるようにします。

説明用の上限は、一連の作成と批判を一ラウンドとして全体で六ラウンド、自動処理開始から五分、モデルとツールの利用費合計で一米ドルとします。実価格や推奨値ではありません。人件費などはこの枠に含めず、別に管理します。終了報告に必要な時間と費用も枠内に確保し、残りで次の処理を収められなければ開始しません。いずれかの上限を先に満たす場合に打ち切ります。

状態 同じ資料に対する架空のやり取り 判定と次の動作
正常な進行 初案の「三営業日で回答」を批判役が指摘し、作成役が「目安」と例外を復元 根拠との不一致が解消。保存前の確認へ進む
進展のない循環 作成役が例外を削り、批判役が復元を求め、修正後にまた同じ理由で削る 反復する指摘と差分を記録し、追加の往復を止める
未合意の膠着 両者とも意味は保持するが、一方は一文、他方は二文の説明を主張 好みを重大な誤りと混ぜず、裁定役へ渡す
相互待ち 作成役は批判の確定待ち、批判役は完成案待ちで動けない 待ち先と必要入力を確認し、管理担当が順序を決め直す

正常時の出力例は「申請の回答は三営業日が目安です。追加確認が必要な場合は延びます」です。元資料と照合して保存へ進み、保存先の内容と版まで確認できれば完了として返します。

循環の検知は、成果物の差分、未解決指摘、追加された根拠を見て行います。この例では、二ラウンド続けて解消した指摘も新しい根拠もなければ、六ラウンドを待たず裁定へ移すと定めます。言い換えだけで同じ指摘が続く場合も、正しい文章を変えずに確認が進む場合もあります。したがって、文字列の一致や差分の量だけでは判定せず、根拠と未解決事項の変化を確認します。この照合には記録と確認の手間がかかります。短すぎる閾値で有用な検討まで切らないよう、業務ごとに通常の進み方と照らして調整します。

裁定の期限を、反復上限と別に持つ

例の裁定役は、事前に任命した業務担当者です。一文か二文かを選ぶことはできますが、「例外を残す」という依頼を勝手に捨てる権限はありません。AIに裁定を補助させる場合も、選べる範囲と人へ戻す条件を固定します。

この例では裁定への移行後一分を回答期限とし、全体の五分より後には延ばしません。返答がなければ、自動の議論を終了し、「案は二つ、意味の検査は確認済み、表現は未決」として返します。次のエージェントを追加して、最初から合議を始め直す扱いにはしません。残り時間が少なければ裁定待ちを短くし、引き渡しを優先します。

人へ渡す際は、最後の発言だけを要約するのではなく、候補案、原資料の該当箇所、双方の指摘、合格した条件、未合意の条件、判断してほしい一点を揃えます。「全員一致で採用」と書き換えず、誰がどの範囲を決めたかを残します。AutoGenのHuman-in-the-Loopも、実行中の入力待ちと、終了条件で止めて後の実行へ引き継ぐ方法を分けて説明しています。

議論を終えた後も、外部の結果は照合する

管理担当は打切りを決めたら、新規の依頼を止め、子の処理と実行中のツールを一覧にします。同じ依頼に属する処理へ停止要求を伝え、要求の受付と実際の停止を分けて確認します。取得済みの案と途中記録を確保し、各処理の停止確認、未完了の仕事、残る外部影響を引き渡します。子から返事がない場合は、親が終了を宣言したことだけを根拠に停止済みにしません。

MCP(Model Context Protocol)の2026-07-28版Cancellationは、通信方式によって取消信号を区別し、取消が完了後に届く場合や、取消不能な場合も扱います。取消を要求したことと、すでに生じた保存・送信の結果を取り消したことは別だと考える必要があります。

回答案の保存要求を出した後に応答を失った場合は、「議論は終了、保存結果は不明」と報告します。保存先や要求の状態を照会し、保存済みなら内容と版を確認して重ねて保存しません。処理中なら担当と次の照会時点を決め、失敗が確定した場合も、先の要求が遅れて反映されないか、重複を防げるか、許可と対象状態が有効かを確認して再試行を判断します。

AWSのMaking retries safe with idempotent APIsが説明するように、応答不着だけでは副作用の有無を判断できません。重複を防ぐ冪等性の仕組みも、同じ主体・意図・内容、識別子の保持期間など、サービス側の契約に依存します。単なる要求の番号だけで保証されるものではありません。

外部結果を確認できないまま自動処理の期限を迎えたら、結果照会の責任を運用担当へ移し、未解決として追跡します。部分成果を返せたことと、元の業務が完了したことを分けます。停止した議論を再開するには、不足資料の追加、判断基準の確定、相互待ちの解消など、条件が変わった根拠を示し、残予算と外部操作の状態を確認します。担当名を変えただけの再委任で上限を消さないことが、終わらない連鎖を区切るための条件です。

目標逸脱・反復・過剰実行を止める条件は「AIエージェントの目標逸脱・反復・過剰実行を止める条件」、マルチエージェントの役割・受け渡し・責任分界の設計は「マルチエージェントの役割・受け渡し・責任分界を設計する」で解説しています。

出典・参考資料

  1. Microsoft AutoGen「Termination」(確認日:2026年10月19日)
  2. Microsoft AutoGen「Teams」(確認日:2026年10月28日)
  3. Microsoft AutoGen「Human-in-the-Loop」(確認日:2026年10月12日)
  4. Model Context Protocol「Cancellation」(確認日:2026年10月28日)
  5. Malcolm Featonby「Making retries safe with idempotent APIs」(確認日:2026年10月28日)
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この記事を書いた人

さかっぺのアバター さかっぺ PAP Research運営 / AIガバナンス・アーキテクト / プロンプトデザイナー

ITインフラの実務経験をもとに、AIの安全性と実用性を両立する仕組みを研究。PAP Researchでは、AIモデルの継続観測と、プロンプト・AI技術の実務解説を発信しています。

経歴や研究方法、発信方針は運営者プロフィールで紹介しています。

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