Compactionと再要約で失われた決定や制約を原記録から戻す

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会話を圧縮してから作業を再開するときは、要約に残った決定・制約・未完了作業を、圧縮前の記録と照合します。条件が弱まったり、未決事項が決定済みに変わったりしていれば、原記録から修復してから再開します。文章として自然な要約でも、次に行ってよい作業まで正しく引き継いでいるとは限りません。

Compactionは、ここでは長い会話を後続の処理に使いやすい短い文脈へ整理することを指します。LangChainの短期記憶の説明では、古いメッセージを取り除く方法と、要約へ置き換える方法が紹介されています。本稿では要約を使う構成を扱いますが、すべての製品が同じ方式で圧縮し、原文を同じ場所に保存するという意味ではありません。

目次

圧縮する前に作業の条件を固定する

要約を作る前に、次の判断が変わる情報を原記録から取り出します。決定の内容に、決めた人、対象、期限、禁止事項、未決の点、完了を確かめた記録への参照を対応させます。「資料を作る」という作業名だけでは、下書きなのか公開版なのか、何を載せられるのかを再現できません。

以下は架空の資料作成会話です。利用者は、記載する情報を扱うことが認められた作業環境で、社内レビュー用の資料をAIに下書きさせています。外部公開は依頼していません。10月9日の原記録には、次の内容があります。日時はすべて2026年の日本時間です。

  • R1:社内レビュー用の下書きを10月16日17時までに作る。公開日ではない
  • R2:顧客別の売上数値は非公開情報で、この資料には記載しない。社内向けでも例外にしない
  • R3:比較案AとBの採用は未決。担当者が10月12日に判断し、決定を記録する
  • R4:図表は作成済みだが、出典との照合は未完了。照合前にレビュー完了として扱わない
  • R5:R2の根拠は、当該資料に適用する情報取扱条件Dの第2項。R4の作成済み図表は版1

これらの識別子は説明用です。実務では、権限のある人が開けるメッセージ、議事録の該当箇所、成果物の版などに対応させます。参照先の題名だけを残しても、同名の新版があると、どの時点の条件だったか分からなくなります。

要約と原記録を別々にたどれるようにする

要約には、対象となる会話の範囲、作成日時、版、原記録への参照を付けます。再要約する場合は、元になった要約の版と、その後に追加された会話の範囲も残します。参照できる原記録があれば、途中の要約だけを頼りに修正する必要がなくなります。

一方、参照を残すために非公開情報を別の共有先へ複製してよいわけではありません。要約も原記録も、内容に応じた保存先と閲覧範囲で扱います。この例の引き継ぎ文には顧客別の売上数値を写さず、記載禁止の条件と、その根拠を確認できる参照を残します。

再開用の情報は、説明文と作業状態を分けて持つと照合しやすくなります。たとえば「AとBを比較中」という説明に加え、「採用案は未決」「決定者は担当者」「判断予定は10月12日」と記します。図表も「作成済み」と「出典照合済み」を一つの完了欄へまとめません。状態を分けるのは、この二つで次に行う作業が異なるためです。

原記録への参照を付けただけでは、参照先が実際に保存されているか、再開する人に閲覧権限があるかまでは分かりません。圧縮前にリンクや版を確かめ、再開時にも必要箇所へ戻れることを確認します。保存期間が切れた原文を要約から再現したつもりになることは避けます。

原記録と再要約を比べると何が分かるか

同じ会話から、次の要約と再要約ができたと仮定します。実際のAI出力を測定したものではなく、意味の変化を確認するための作例です。

要約1:「10月16日17時までに社内レビュー用下書きを作成。顧客別売上は掲載不可。A/Bは10月12日に担当者が決定予定。図表版1は作成済み、出典照合は未完了。原記録R1〜R5を参照。」

再要約2:「10月16日に資料を公開。機密数値は扱いに注意。比較案は担当者が選定。図表は完成している。」

照合する項目 再要約2で変わった意味 原記録から戻す条件
締切と成果物 下書きの期限が公開日になり、17時が消えた 社内レビュー用下書き、10月16日17時
記載禁止 掲載不可が、注意すれば使えるように読める 顧客別売上は社内向けでも記載しない
採用案 未決と判断予定日が落ち、選定済みとも読める A/Bは未決、10月12日に担当者が判断
図表の状態 作成と照合が一括して完成になった 版1は作成済み、出典照合は未完了
根拠 情報取扱条件と原記録への参照が消えた R1〜R5、条件D第2項、図表版1への参照

ここでいうSummary Driftは、要約を経ることで原記録との意味がずれることです。単に語数が減ったことや、同じ意味の言い換えをしたことは含めません。再要約2では、期限の対象、禁止の強さ、未完了の状態が変わっているため、次の判断にも影響します。

Maynezらの2020年の研究では、当時の複数の抽象型要約システムを人手で評価し、入力文書に忠実でない内容を観察しています。ただし、この研究の紹介から、現在のすべてのモデルで再要約のたびに一定率で意味が劣化するとは言えません。本稿の作例も、その頻度や製品間の優劣を示してはいません。

再開時は次の動作を答えさせて照合する

要約同士の文章比較だけでは、後続の処理が条件をどう理解したか分かりません。そこで、送信や公開などの実操作を伴わない再開テストを用意します。以下は実施手順と期待結果であり、実行済みの試験結果ではありません。この例なら「次に行う作業、保留する判断、掲載してはいけない情報、参照する成果物の版」を再開先に整理させ、担当者が原記録と照合します。

期待する答えは、図表版1の出典照合を進め、A/Bの採用を未決として保留し、顧客別売上を記載せず、社内レビュー用下書きを期限までに用意することです。「公開する」「Aを採用済み」「図表の照合は不要」となれば、原記録と合わない箇所を直すまで、その判断に依存する作業を止めます。

確認は、答えに書かれた内容を原記録で裏付ける方向と、原記録の重要条件が答えに残っているかを見る方向の両方で行います。誤った文がなくても、「未決」が丸ごと消えていれば採用案を勝手に補う余地が残るためです。合わない項目は不一致、参照先を開けない項目は未確認とし、同じ扱いにしません。

再開確認の文章が合っていても、外部操作の承認を得たことにはなりません。下書きの作成依頼を要約して「資料を完成させる」としただけで、送信や公開まで許可が広がるわけではありません。実行する段階では、対象の操作について有効な依頼と承認を別に確かめます。

ずれた要約を修復してから使い直す

不一致が見つかったら、再要約2の語尾だけを直すのではなく、R1〜R5へ戻って再開用の記録を作り直します。復旧版には、下書きの対象と時刻、記載禁止、未決事項、未完了の照合、根拠参照を戻します。誤った要約は現行の参照対象から外し、必要な変更記録を残す場合も、使用停止の版であると識別します。

ただし、原記録の決定が現在も有効かは別の問題です。たとえば10月12日を過ぎて再開するなら、R3の予定を根拠に「まだ未決」と断定せず、担当者の決定記録が追加されていないか確かめます。追加記録を入手できなければ、現時点の採用案は未確認として保留します。古い要約の誤りを直す作業と、新しい決定を反映する作業を混ぜないことが大切です。

修復後は同じ再開確認を行い、直した版が実際に参照されているかも確認します。別の引き継ぎ文や保存済みの入力に再要約2が残っていれば、本文だけを直しても誤った条件が再び入ります。参照経路を把握できない場合は、確認できた範囲と未確認の範囲を記録して、影響する判断を保留します。

差分照合は、圧縮直後、重要な条件の変更後、作業を再開する前を節目にします。長く続く案件では定期的な確認日も決めますが、一律に何回ごとなら十分とは言えません。原記録へ戻る手間が大きい場合は、期限・禁止・未決・実行状態を参照しやすい一覧にして保存します。それでも原記録を開けない項目は、一覧の記載だけで確認済みにせず、担当者への照会を残します。

会話履歴を圧縮するときに残す情報と省く情報は「履歴を圧縮するときに残す情報と省く情報」、AIに何を覚えさせ、いつ使わなくするかを決める記憶管理の基本は「AIに何を覚えさせ、いつ使わなくするかを決める記憶管理の基本」で解説しています。

出典・参考資料

  1. LangChain「Short-term memory」(確認日:2026年10月25日)
  2. Joshua Maynezほか「On Faithfulness and Factuality in Abstractive Summarization」(確認日:2026年10月25日)
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この記事を書いた人

さかっぺのアバター さかっぺ PAP Research運営 / AIガバナンス・アーキテクト / プロンプトデザイナー

ITインフラの実務経験をもとに、AIの安全性と実用性を両立する仕組みを研究。PAP Researchでは、AIモデルの継続観測と、プロンプト・AI技術の実務解説を発信しています。

経歴や研究方法、発信方針は運営者プロフィールで紹介しています。

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