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複数の案件でMemoryを使うときは、案件固有の情報と、案件をまたいで使うことを認めた共通情報を分けます。同じ担当者が扱っていても、予算や納期、決定事項はそれぞれの案件に結び付けて保存し、今回の案件に合うものだけを回答へ渡します。回答後にも、金額や日付がどの記録から来たかを照合します。
ここで扱うのは、一人の担当者が正当に扱える二つのプロジェクトの文脈整理です。他の組織や利用者の情報へアクセスする許可を得る方法ではありません。案件名や保存領域を選んだことだけで、アカウントやテナントをまたぐ認可が成立するわけではありません。
同じ担当者の情報でも案件の条件は別に持つ
以下は架空の二つのプロジェクトです。担当者は両方の資料を扱う権限があり、それぞれの条件を、認められた環境に保存して参照することが承認されているとします。予算・納期・表記ルールは説明用の仮定です。
| 保存範囲 | 元の決定と参照先 | 使ってよい場面 |
|---|---|---|
| A:展示会案内 | 税込・必要経費込み30万円以内。納期は2026年11月6日17時、日本時間。決定記録A1 | Aの見積比較と工程案 |
| B:採用冊子 | 税込・必要経費込み80万円以内。納期は2026年11月27日17時、日本時間。決定記録B1 | Bの見積比較と工程案 |
| 共通:日付表記 | 日付は「2026年11月6日」のような年月日形式にする。共有承認記録C1 | AとBの文書での日付表記 |
共通にするのは、C1で認めた日付の書き方だけです。日付の値まで共有するのではありません。Bの納期をAと同じにすることも、両方の予算を80万円へ統一することも、この表記ルールからは導けません。
元の発言が「この案件は短納期で進める」なら、その案件の条件として保存します。担当者の発言だからといって、「担当案件はすべて短納期」と人物プロフィールへ変えません。案件に結び付いた判断を一般的な好みに置き換えると、別案件にも同じ条件を適用しやすくなります。
保存先だけでなく参照する範囲も分ける
保存項目には、案件の識別子、対象作業、内容、出典、確認時点、版を付けます。表示上の案件名を変更しても識別できるようにし、同名案件の取り違えを避けます。ここではA/B/Cのような略号を使いますが、実務では実際の案件管理情報と対応させます。
LangChainのMemory overviewでは、長期記憶をnamespaceとkeyで整理する構成が説明されています。namespaceは情報をまとめる区分、keyはその中の項目を識別するものです。このような整理は案件別の保存先を設計する参考になりますが、名前を付ければ目的に合う情報だけが自動で使われるという保証ではありません。
Aの工程案を作るなら、今回の参照範囲を「Aの現行情報と、Aへの共有が認められたC1」と決めます。Bの予算や納期は、Aの値が見つからないときの代用品にも入れません。情報が不足しているなら、Aの決定記録を取得するか、Aの担当条件を確認します。
検索で似た文書が見つかっても、意味が似ていることと、今回の案件に適用できることは別です。「制作費」「入稿日」といった語は両案件に現れます。候補を取り出す段階と、回答に渡す直前に、各項目がAまたは承認済み共通範囲に属するかを確認します。
既製サービスを使う場合も、画面でプロジェクトを切り替えたことだけで、会話履歴や保存済みの記憶がどこまで分離されるかを断定しません。実際の仕様と設定を確認し、対象を限定する機能がなければ、案件ごとの会話と資料を分け、必要な原記録を明示して使います。制御できない範囲は、できているものとして扱いません。
共通情報は内容と適用先を決めてから共有する
共通範囲は、使えそうな情報を集める場所ではありません。何を、どの案件で、どの目的に使うかが確認できた項目を置きます。この例ならC1の内容は日付表記、適用先はAとB、目的は文書表記の統一です。予算条件や個別の決定は含みません。
C1を保存するときは、共有を認めた人と記録、適用先、変更や取消の条件も残します。後から新しい案件Cが増えた場合、AとBに認めた共有を、Cにも自動で広げない扱いにします。本人の希望だけでなく、扱う資料の利用条件に制約があるときは、その条件にも合わせます。
一つの案件で有効な例外も分けて扱います。たとえばBの指定様式だけは日付を「2026/11/27」で表示すると決まったなら、Bのその文書に限る例外として保存します。C1全体を上書きせず、Aの書き方を変えないようにします。どちらを使うべきか判断するには、共通ルールの新しさだけでなく、対象文書と例外の適用範囲が必要です。
共有後も、元の項目を複製するのか、共通の一項目を参照するのかを決めます。複製する構成では、一方だけ更新して古い表記ルールが残ることがあります。参照する構成でも、参照先の版を取り違えれば同じ問題が起こるため、使用する版を確認できるようにします。
要約から案件名を落とすと意味が変わる
A1とB1をそれぞれ要約しても、予算と納期の所属は残します。Aなら「Aの見積比較は税込・必要経費込み30万円以内、納期は2026年11月6日17時・日本時間、根拠A1」、Bなら「Bの見積比較は税込・必要経費込み80万円以内、納期は2026年11月27日17時・日本時間、根拠B1」とします。
これを一つの短い記憶へ統合し、「担当者の制作予算は80万円、納期は11月6日」とした場合、Bの予算とAの納期を組み合わせた条件ができてしまいます。どちらの原記録にもない組合せです。文章が自然でも、Aの工程案へ使うと予算を誤り、Bの工程案へ使うと納期を誤ります。
修正する際は、この混ざった文に案件名を後付けするだけでは足りません。A1とB1へ戻り、金額、費用範囲、日付、時間帯、対象作業をそれぞれ対応させ直します。C1は別項目として残します。これらは手作業で用意した説明例であり、実在のサービスで発生した事例や、実行済みの要約試験ではありません。
また、要約に案件名があっても、後続の処理がそこを読まず値だけ取り出していれば混線は残ります。保存された文章の正しさと、実際にどの情報が回答へ渡ったかを分けて見る必要があります。
回答の前後で使った案件を確かめる
Aの工程案を依頼されたとき、回答前には対象案件をAと確定し、参照するA1とC1の版を確認します。「前の条件で工程案を作って」という依頼がAにもBにも読めるなら、現在の会話や明示された案件選択を確認し、それでも決まらない場合は案件名を尋ねます。直前に開いた案件を、根拠なく選びません。
回答後は、本文の予算が30万円、納期が2026年11月6日17時・日本時間で、税込・必要経費込みという条件を保っているかをA1と照合します。C1との照合は年月日形式という書き方だけを確認します。両者を分ければ、日付の見た目が正しいだけで納期も正しいと判断することを避けられます。
確認用には、Aを依頼した場合、Bを依頼した場合、案件を特定できない場合を分けます。前二者は各案件の金額と納期を使うこと、最後は案件の確認へ進むことが期待結果です。共通の日付表記は両案件で使い、Bの例外様式を使う場合だけその文書の条件に従います。これは試験の設計例であり、実施した成績ではありません。
回答が偶然正しい値になっただけでは、参照範囲を適切に選べたとは限りません。設計者は、確認できる範囲で検索候補、回答へ渡した項目の識別子、使用した版を照合します。記録には必要な識別情報を残し、確認のために案件全文を別の広い閲覧範囲へ複製しないようにします。
混ざった条件を外し更新後の範囲で再開する
Aの回答に80万円が混ざったら、その回答を根拠にした採否判断を保留し、A1へ戻ります。原因が保存済みの統合要約なら、その要約を現行の参照対象から外して修正します。候補の選択なら案件条件を見直し、以前の回答を再利用するキャッシュなら、案件が異なる結果を使わないようにします。
修正後はAだけでなくBも確認し、Aの修復でBの80万円まで30万円へ上書きしていないかを見ます。共有項目を修正した場合は、その項目を使う対象案件を確認します。共有を取り消した項目や終了した案件の情報は、保存の要否と別に、現在の回答で参照する範囲から外します。過去の経緯として残すなら、その用途が分かる形にします。
どの要約や参照先へ情報が渡ったか確認できなければ、修復済みの範囲を限定して伝え、影響する判断を保留します。再開時には対象案件と使う原記録を明示し、修正した値だけでなく、他案件や共有項目の条件も保たれていることを確認します。
長期Memoryの有効期限と削除を情報ごとに決める方法は「長期Memoryの有効期限と削除を情報ごとに分けて管理する」、AIに何を覚えさせ、いつ使わなくするかを決める記憶管理の基本は「AIに何を覚えさせ、いつ使わなくするかを決める記憶管理の基本」で解説しています。
