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AIから異なる案を引き出したいときは、「もっと案を出して」と件数を増やす前に、誰の困り事を扱うか、何を変えられるかを切り替えます。出力後は表現の違いを取り除き、対象や実施方法に違いが残るかを確認します。多く出たことと、実行できる案が増えたことは別に測ります。
この方法は、企画担当者が考える材料を増やすための進め方です。役割を指定すればその立場の実際の要望を把握できるわけではありません。AIが挙げた困り事は仮説として扱い、採用する前に当事者や業務資料で確かめます。
「研修案を十個」では何が違うのか分からない
架空の会社で、受講者20人が業務上の誤りを見つけて修正できるように、社内研修を企画するとします。学習目標、受講時間60分、既存の社内設備を使うことを固定します。予算や講師の調整はこれから確認する前提です。以下は説明用の企画例であり、生成や研修を実施した結果ではありません。
元の依頼は「参加しやすい研修案を十個出してください」です。もし「短い動画を見せる」「動画教材を配る」「動画で学べるようにする」が並んでも、対象、内容、受講方法が同じなら、三つの異なる企画が得られたとは言いにくくなります。
人が言い換えを整理する時間が長くなれば、案を作る時間だけが短くても改善とは限りません。改善前の作業を、依頼文作成、案の受け取り、重複整理、実現性の確認という工程に分けると、変える箇所が見えてきます。
2024年の短編物語を作る実験研究では、生成AIのアイデアを使える条件で作品の評価が高まる一方、作品同士が似る結果も報告されました。これは研修企画での効果を測った研究ではなく、ここで示す視点切り替えの有効性を直接証明するものでもありません。案ごとの良さと、案の集まりとしての違いを分けて見る必要があることを考える材料です。
立場ごとに違う問いを渡す
改善後は、受講者、運営者、管理者それぞれの立場に、異なる困り事と変更可能な条件を対応させます。役割名に加え、何を考えるための立場なのかを明示します。
| 視点 | この例で考える問い | 変えてよい条件 | 固定する条件 |
|---|---|---|---|
| 受講者 | 自分のつまずきをどう見つけるか | 個別演習、組み合わせ、振り返り方法 | 学習目標と受講時間 |
| 運営者 | 講師の準備や採点をどう分担するか | 教材の共通化、相互確認、事前準備 | 学習目標と受講時間 |
| 管理者 | 職場で修正できるようになったかを何で見るか | 終了時課題、後日の確認方法 | 学習目標と受講時間 |
例えば依頼を、「誤りを見つけて修正する研修を、受講者のつまずき、運営者の準備負担、管理者の到達確認という三つの問いから考えてください。各案に対象、実施方法、必要な準備、未確認の前提を付け、名称だけが異なる案はまとめてください」と変えます。
差し替えるのは学習目標、対象者、時間、利用できる設備です。予算を仮に置くなら仮定と明示し、確定した条件に見せません。また、特定の立場について「管理者は費用だけを重視する」などと固定せず、その案件で確認した関心と、発想用に置いた問いを区別します。
言い換えを除いて実施方法の違いを見る
この条件から検討できる案として、次の三つを置きます。AIが実際に生成した記録ではなく、違いの見方を説明するための作例です。
- 個別診断型:全員が同じ短い課題に取り組み、誤りの種類に応じた練習へ進む
- 相互確認型:二人一組で成果物を交換し、共通の基準で誤りと修正理由を説明する
- 職場接続型:架空の業務資料を修正した後、職場で使う確認手順を本人が記述する
三案は、それぞれ分岐する練習、他者との確認、職場手順への接続という違いがあります。ただし、別の視点から出た案が同じ方法に行き着くこともあります。「受講者向け動画」と「管理者向け動画」という名前だけで別案にせず、誰が何をするかまで比べます。
重複を整理するときは、案の名前を隠して「対象」「主な活動」「成果物」「必要な資源」を短く記します。この四項目が実質的に同じなら一つにまとめ、どの説明を残したかを記録します。対象者だけが違う場合も、その違いで内容や進め方が変わるかを確かめます。
一方、動画を見る案と動画を作る案は、同じ動画という語を含んでいても活動が異なります。単語の一致率だけで重複と判断すると、意味のある違いを消してしまいます。AIへまとめさせた後、人が統合理由と残った案を照合します。
前提を変えるときは変更点を一つずつ見えるようにする
同じ立場で案が似続けるなら、前提を変えて追加します。例えば受講時間60分を保ちながら、「講師が全員を同時に指導する」という前提を外し、受講者同士で確認できる方法を考えます。学習目標を下げる案や、必要な情報管理を省く案を、新しさのために採用しないようにします。
複数の条件を同時に変えると、どの変更が案の違いを生んだか分かりにくくなります。講師数、受講時間、設備を一度に変えた案も発想材料にはできますが、元の条件と同じ費用や負担だとは扱えません。比較表へ変更点を残し、実現性の確認で戻せるようにします。
案を広げる段階と絞り込む段階で依頼をどう切り替えるかは、発散と収束でプロンプトを切り替える方法で扱っています。ここでは、発散の段階に残す案の扱いに絞ります。理由付きで保留する案が残っても構いません。講師が確保できるか未確認の案を、実施不可能と早く決める必要はありません。ただし「追加講師が必要」という前提を落として、準備不要の案として残すことは避けます。
採用前の確認を企画担当者へ戻す
個別診断型なら課題と分岐教材を用意できるか、相互確認型なら誤った説明が広がらない確認方法があるか、職場接続型なら職種ごとの資料を準備できるかを調べます。設備、予算、講師時間、受講者の利用条件は、社内の担当者と現行資料で確認します。
当事者の要望を確認できなければ、「受講者が希望している案」ではなく「受講者の負担を考えた提案」と記します。実施決定は、企画責任者が目的と制約を照合して行います。独自性が高くても、目的に合わない案や実施条件が揃わない案を、そのまま採用しません。
採用後の学習効果と、案を作る工程の改善も分けます。選択肢が増えたことから、受講者の習得率が上がったとは言えません。研修を実施する場合は、学習目標に対応する確認課題を別に用意する必要があります。
改善前後は件数と人の作業時間を一緒に測る
工程を比べるなら、例えば二週間の試行期間を設け、同じ企画条件と出力件数で、従来の依頼と視点を分けた依頼を比較します。期間は運用例であり、十分な評価を保証する日数ではありません。モデルや設定、入力資料、依頼回数も記録します。
記録するのは、受け取った案の総数、重複統合後の案数、実現性を確認できた案数、未確認の案数、依頼から人の整理・確認までの時間です。案の違いを判定する基準を先に決め、可能なら依頼方法が分からない形で案を並べて確認します。
仮に従来も改善後も12案を受け取り、統合後がそれぞれ4案と7案なら、異なる案として残った割合は4÷12で約33.3%、7÷12で約58.3%です。いずれも小数第2位を四捨五入した説明用の値で、改善実績ではありません。実現性確認が終わっていない案は、採用可能な案数に加えません。
案ごとの準備条件が増えれば、確認時間も増えます。反対に案数が変わらなくても、実施条件が明確になり比較しやすくなることもあります。一回の出力で方式の優劣を決めず、異なる企画条件でも同じ基準で確認し、案の幅と確認負担の両方から続ける方法を選びます。
出てきた事業案を事実と仮説に分けて確かめる方法は「新規事業案の事実と仮説を分けて需要と実現性を確かめる」、案を広げたあと実行前に確かめる考え方は「AIで案を広げ、実行前に確かめる――守りと攻めの両立」で解説しています。

